「おもむろに」の意味は?4割が誤用する理由と誤解されない使い方
「彼はおもむろに立ち上がった」
この文章を読んだとき、どんな動作を想像しますか?「急に立ち上がった」と思った方、実はそれ、間違っているかもしれません。
「おもむろに」という言葉、日常会話や小説でよく見かけますよね。でも、この言葉の本来の意味を正しく理解している人は、実は半数以下なんです。文化庁の調査によると、約4割の人が真逆の意味で使っているという衝撃的なデータも。
この記事では、「おもむろに」の正しい意味から、なぜ誤用が広がったのか、そして誤解されずに使うための実践的なテクニックまで徹底解説します。
目次
「おもむろに」の本来の意味
結論から言うと、「おもむろに」は**「ゆっくりと、落ち着いて」**という意味なんです。
急いだり慌てたりせず、落ち着いて動作を始める様子を表す言葉なんですね。
漢字で書くと「徐に」
「おもむろに」を漢字で書くと「徐に」となります。
この「徐」という漢字、見覚えがありませんか?そう、「徐行(じょこう)」の「徐」です。電車や車がゆっくり進むことを「徐行運転」と言いますよね。つまり、「徐」という漢字自体が「ゆっくり」という意味を持っているわけです。
他にも「徐々に(じょじょに)」という言葉がありますが、これも「少しずつ、ゆっくりと」という意味。漢字を見れば、本来の意味が想像できるんですよ。
辞書的な定義
主要な国語辞典では、こう定義されています:
広辞苑(第7版)
落ち着いて事を始めるさま。ゆるやかに。
明鏡国語辞典(第2版)
物事の起こり方がゆっくりとしているさま。
どちらも「ゆっくり」「落ち着いて」という意味で統一されていますね。
ポイントは、単に動作が遅いだけではなく、**「じっとしている状態から、ゆっくりと動作を始める」**というニュアンスがあること。つまり、いくぶんもったいぶったような、間を取るような動きを指すんです。
正しい使い方の例文
では、正しい使い方の例を見てみましょう:
- 先生はおもむろに黒板の前に立ち、静かに話し始めた。
- 彼女はおもむろに鞄から手帳を取り出し、ページをめくった。
- おもむろに時計を見ると、もう午後3時を回っていた。
- 老人はおもむろに語り始め、私たちは静かに耳を傾けた。
- 会議室に入ると、部長がおもむろに資料を開いた。
これらの例では、どれも「急いで」ではなく「ゆっくりと、落ち着いて」動作が行われていることが分かりますよね。
「おもむろに」の誤用とは
ところが現代では、多くの人がこの言葉を真逆の意味で使ってしまっているんです。
誤用の意味「いきなり、突然」
誤用では、「おもむろに」が**「いきなり」「突然」「不意に」**という意味で使われています。
つまり、本来の意味とは正反対なんですね。ゆっくりとした動作を表す言葉が、急な動作を表す言葉として使われているわけです。これはかなり大きな誤解ですよね。
誤用の例文
誤用の例を見てみましょう(これらは間違った使い方です):
- ❌ 彼はおもむろに立ち上がり、大声で叫び始めた。
- ❌ おもむろに雨が降り出し、皆が慌てて傘を探した。
- ❌ 犬がおもむろに吠え出し、近くの子供が驚いた。
- ❌ 彼女はおもむろに電話を切って、その場を去った。
これらの文章では、「急に」「突然」という意味で「おもむろに」が使われていますが、これは誤用なんです。
文化庁調査で見る誤用率
文化庁が2014年に実施した「国語に関する世論調査」では、驚くべき結果が出ています。
「おもむろに席を立った」という例文を示して意味を尋ねたところ:
- 正しい意味「ゆっくりと」:44.5%
- 誤用「不意に」:40.8%
- その他・分からない:14.7%
正しい意味で理解している人が半数以下。しかも、誤用している人との差はわずか4ポイントなんです。
さらに興味深いのが年齢別のデータです:
70代以上
- 正しい意味:73%
20代
- 正しい意味:20%
若い世代ほど誤用率が高く、20代では実に8割近くが間違って理解しているという結果に。50代を境に、認識が大きく分かれているんですね。
なぜ誤用が広がったのか

それにしても、なぜこれほど誤用が広がってしまったのでしょうか?言語学的に見ると、3つの理由があります。
理由①:語感が「思いっきり」に似ている
「おもむろに」という音の響き、何かに似ていませんか?
実は「思いっきり」や「思い切って」といった言葉と語感が近いんです。これらは「ためらいを振り切って行動する」という意味ですよね。
「おも」という音から始まり、「ろ」という濁音が入ることで、なんとなく力強い印象を受けてしまう。この音の印象が、「急に」「勢いよく」というイメージにつながってしまったと考えられています。
理由②:文脈との組み合わせ
「おもむろに」は、しばしばドラマチックな場面で使われます。
例えば:
- 「沈黙が続いた後、彼はおもむろに口を開いた」
- 「緊張が高まる中、おもむろに扉が開いた」
こういった文脈では、「ゆっくり」という動作のテンポと、「緊張感が高まる」という心理状態が組み合わさっているわけです。
読者や聞き手は、この緊張感の方に意識が向いてしまい、「急に何かが起こった」と解釈してしまうんですね。
理由③:世代間での意味の変化
言葉は生き物です。世代を超えて伝わる中で、意味が変化していくことは珍しくありません。
「おもむろに」の場合、文学作品や堅い文章で使われることが多く、日常会話ではあまり使われない言葉でした。そのため、実際の使用例に触れる機会が少なかった若い世代が、推測で意味を理解しようとした結果、誤解が広がったと考えられます。
さらに、一度誤用が広まると、誤用同士で使い合うことで「これが正しい」と思い込んでしまう循環が生まれるわけです。
「おもむろに」の正しい言い換え表現

では、「おもむろに」の代わりに使える表現を見ていきましょう。
本来の意味での類語
本来の「ゆっくりと、落ち着いて」という意味を表したいときは、こんな言い換えができます:
基本的な言い換え
- ゆっくりと
- 静かに
- 落ち着いて
- 慎重に
ニュアンス別の言い換え
- やおら(ゆっくりと動作を起こすさま)
- 悠然と(ゆったりと落ち着いているさま)
- 徐々に(少しずつ、ゆっくりと)
- のんびりと(急がず、ゆとりを持って)
例えば:
- 「彼はおもむろに立ち上がった」→「彼はゆっくりと立ち上がった」
- 「おもむろに話し始めた」→「落ち着いて話し始めた」
シンプルですが、これなら誤解される心配はありませんよね。
誤用の意味を伝えたいときの代替表現
もし「いきなり」「突然」という意味を伝えたいなら、素直にこれらの言葉を使いましょう:
急な動作を表す表現
- いきなり
- 突然
- 不意に
- 急に
- やにわに
- にわかに
- 唐突に
例えば:
- ❌「彼はおもむろに走り出した」→ ✅「彼はいきなり走り出した」
- ❌「おもむろに雨が降り出した」→ ✅「突然雨が降り出した」
こうすれば、意図した意味が確実に伝わります。
誤解を避けるための使い方のコツ
「おもむろに」という言葉、使いこなすのは意外と難しいんです。誤解されないための実践的なコツをお伝えします。
使う際の3つの注意点
1. 相手の年齢層を考慮する
上で見たように、20代と70代では認識が真逆に近い状態です。
若い人に向けて書く場合や話す場合は、「おもむろに」を使うと誤解される可能性が高いでしょう。逆に、年配の方が相手なら、本来の意味で理解してもらえる可能性が高いですね。
2. 文脈で補強する
どうしても「おもむろに」を使いたい場合は、前後の文脈で意味を明確にしましょう。
例えば:
- 「彼は焦る様子もなく、おもむろに資料を広げた」
- 「ゆっくりとした動作で、おもむろに立ち上がった」
こうすれば「ゆっくり」という意味が伝わりやすくなります。
3. ドラマチックな場面では避ける
緊張感のある場面、意外性のある展開では、「おもむろに」は避けた方が無難です。
なぜなら、そういった文脈では「急に」という誤用の意味で解釈されやすいから。代わりに「静かに」「ゆっくりと」といった、より明確な言葉を選びましょう。
迷ったら別の表現を選ぶ
正直なところ、現代では「おもむろに」は使いづらい言葉になっています。
誤用率が4割を超え、世代によっては8割近くが誤解しているという状況では、せっかく正しく使っても伝わらないリスクが高いんですね。
実用的なアドバイス
- ビジネス文書では避ける
- 若い世代向けの文章では使わない
- 迷ったら「ゆっくりと」「落ち着いて」に置き換える
言葉は伝わってこそ意味があります。正しい日本語を守ることも大切ですが、相手に確実に意図を伝えることの方がもっと大切ですよね。
まとめ:世代を超えて伝わる言葉選びを
「おもむろに」は本来「ゆっくりと、落ち着いて」という意味ですが、現代では約4割の人が「いきなり、突然」という真逆の意味で理解しています。
誤用が広がった理由は、語感の印象、文脈との組み合わせ、そして世代間での認識の差。特に若い世代ほど誤用率が高く、20代では8割近くが誤解しているという現実があります。
正しい意味を知ることは大切です。でも、それ以上に大切なのは、相手に確実に伝わる言葉を選ぶことではないでしょうか。
迷ったときは、シンプルに「ゆっくりと」「いきなり」といった分かりやすい表現を選ぶ。それが、世代を超えて円滑にコミュニケーションを取るコツなんですね。
言葉は生きています。「おもむろに」という言葉も、今後さらに意味が変化していくかもしれません。でも、だからこそ、今この瞬間に相手と確実につながれる言葉を選びたいものです。
関連記事
・「檄を飛ばす」の意味を7割が間違えてる?正しい使い方と誤用を避けるコツ
