午後9時。

お腹が空いた。いや、正確には「ラーメンが食べたい」。

これは空腹とは違う。もっと根源的な、DNAレベルの欲求。

日本人の体内時計には、「夜にラーメンを食べたくなる機能」が組み込まれているんじゃないかしら。

家の近くのラーメン屋。あそこにしよう。

カウンター席だけの、小さな店。

行列ができる有名店じゃない。でも、美味しい。そして、一人で入りやすい。完璧。

店の前に着く。暖簾が出てる。営業中。よかった。

扉を開ける。

第一章:カウンターという戦場

「いらっしゃい!」

威勢のいい声。

店内は、カウンター席だけ。10席ほど。

お客さんは数人。みんな、黙々とラーメンをすすってる。

ラーメン屋のカウンターって、独特の雰囲気があるわよね。

静かなんだけど、音がある。すする音、鍋の音、チャーシューを切る音。

会話はほとんどない。みんな、ラーメンと向き合ってる。

真剣勝負。

空いてる席を見つける。端っこの席。落ち着く。

第二章:メニューという名の選択

メニューを見る。

醤油、味噌、塩、とんこつ。

トッピングもいろいろ。チャーシュー、煮卵、メンマ、のり、ネギ…

悩む…いや、悩むふりをしてるだけ。

本当は、もう決めてる。

「醤油ラーメン、チャーシュー追加で」

いつもこれ。冒険しない。だって、これが一番好きなんだもの。

「醤油チャーシュー、一丁!」

厨房に声が響く。

さあ、始まる。私とラーメンの、真剣勝負が。

第三章:待つ時間という試練

水を飲む。

厨房を見る。職人さんが麺を茹でてる。

グツグツという音。湯気が立ち上る。

この待ち時間が、また良いのよね。

期待が膨らんでいく。どんな味だろう。どんな香りだろう。

でも、長すぎても困る。3分以上待つと、「まだかしら…」って思い始める。

人間って、勝手よね。

隣の人が、ラーメンをすすってる。

美味しそう…

早く、私のも来ないかしら。

第四章:運命の一杯

「お待たせ!醤油チャーシュー!」

来た…!

湯気がもうもうと立ち上る丼が、目の前に置かれる。

見て、この美しさ。

黄金色に輝くスープ。その表面に浮かぶ油の膜。キラキラ光ってる。

麺が見える。ちぢれた麺。スープに浸かって、美味しそう。

そして、チャーシュー。通常2枚のところ、追加したから4枚。丼の半分を覆ってる。

この光景、幸せ。

煮卵、メンマ、ネギ、海苔。全部が、完璧な配置。

まるで、芸術作品みたい。

いや、これは芸術作品よ。食べられる芸術。

深呼吸する。

香りを楽しむ。醤油の香ばしさ、豚骨の深み、ネギの爽やかさ。

さあ、いただきます。

第五章:スープという名の真実

まずは、スープから。

これが、私のルール。

レンゲでスープをすくう。

そっと、口に運ぶ。

ずず…

…!

これよ。この味。

醤油の香ばしさ。豚骨の旨味。鶏ガラの深み。

全部が混ざり合って、口の中で踊ってる。

熱い。でも、止められない。

もう一口。

んー…美味しい。

スープって、ラーメンの魂よね。

このスープのために、職人さんは何時間も煮込んだんだろう。

その努力が、この一口に凝縮されてる。

ありがとう、職人さん。心の中で、感謝を伝える。

(聞こえてないけど)

第六章:麺という主役

次は、麺。

箸で持ち上げる。ちぢれた麺が、スープを纏って持ち上がる。

良い感じ。麺がスープをしっかり絡めてる。

口に運ぶ。

すする。

ズズズッ!

(ちょっと音が大きすぎた?でも、ここラーメン屋だから大丈夫よね)

もちもちの食感。噛むと、小麦の香りが広がる。

そして、絡んだスープが、口の中で麺と一体になる。

この一体感。これがラーメンの真髄。

麺だけでも、スープだけでもダメ。

二つが合わさって、初めて完成する。

化学反応よ、これは。

いや、錬金術かもしれない。

第七章:チャーシューという贅沢

チャーシューを一枚。

箸で持ち上げる。柔らかい…今にも崩れそう。

慎重に、口に運ぶ。

噛む。

とろける…!

これ、本当に肉?って思うくらい、柔らかい。

箸で切れるレベル。いや、舌で切れるレベル。

味付けも完璧。甘辛いタレが、肉に染み込んでる。

脂身の部分も、全然しつこくない。むしろ、甘い。

チャーシュー追加して、正解だった。

(明日の体重?知らない。今は、このチャーシューに集中する)

第八章:煮卵という宝石

煮卵を半分に割る。

黄身が、トロリ…

半熟。完璧な半熟。

一口。

んー…!

白身は程よく味が染みてて、黄身はトロトロで濃厚。

これ、卵じゃない。宝石よ。食べられる宝石。

煮卵をスープに浸して、また一口。

スープと煮卵の組み合わせ。最高。

なぜ、こんなに合うの?

誰が最初に、「ラーメンに煮卵を入れよう」って思ったんだろう。

その人に、ノーベル賞をあげたい。

(ノーベル煮卵賞)

第九章:交互に、無心に

麺をすすって、スープを飲んで、チャーシューを食べて、また麺。

このループ。止まらない。

周りの音が消えていく。

聞こえるのは、自分がすする音だけ。

今、この瞬間。

私とラーメンだけが、存在してる。

他の全部が、どうでもよくなる。

仕事のこと?どうでもいい。

明日の予定?知らない。

人間関係?今は考えない。

ただ、目の前のラーメンに集中する。

これが、ラーメンの魔法。

いや、むしろラーメン催眠術?

第十章:残りスープという選択

気づけば、麺がなくなってた。

でも、スープがまだ残ってる。

このスープ、飲み干すべきか。残すべきか。

永遠の問い。

健康を考えたら、残すべき。塩分が…

でも、美味しい…

…3秒悩んで、決めた。

飲む。

だって、美味しいんだもの。

丼を持ち上げる。

ごくごくごく…

最後の一滴まで、飲み干す。

ああ…幸せ。

(明日、ちょっと喉が渇くかもしれない。でも、後悔はしてない)

終章:満たされた夜

「ごちそうさまでした!」

「ありがとうございました!」

お会計を済ませて、店を出る。

夜の空気が、心地いい。

お腹が、ずっしり満たされてる。

ラーメン一杯で、こんなに満足できるなんて。

800円(チャーシュー追加込み)。

この値段で、この幸せ。

コスパ、最強。

そして、何より。

ラーメンを食べてる時間って、全部忘れられる。

嫌なことも、心配事も、全部。

ラーメンって、ストレス解消にもなるのね。

(カロリーは増えるけど)

駅に向かう。足取りが軽い。

また来よう。

きっと、また「ラーメンが食べたい」って思う日が来る。

その時は、また来る。

この店の、醤油チャーシューラーメン。

それが、私の夜の味方。

(そして、体重計の敵)

でも、いいの。

ラーメンは、正義だから。


ひとりメシの美学シリーズ