ひとりメシの美学 #08 ラーメン
午後9時。
お腹が空いた。いや、正確には「ラーメンが食べたい」。
これは空腹とは違う。もっと根源的な、DNAレベルの欲求。
日本人の体内時計には、「夜にラーメンを食べたくなる機能」が組み込まれているんじゃないかしら。
家の近くのラーメン屋。あそこにしよう。
カウンター席だけの、小さな店。
行列ができる有名店じゃない。でも、美味しい。そして、一人で入りやすい。完璧。
店の前に着く。暖簾が出てる。営業中。よかった。
扉を開ける。
目次
第一章:カウンターという戦場
「いらっしゃい!」
威勢のいい声。
店内は、カウンター席だけ。10席ほど。
お客さんは数人。みんな、黙々とラーメンをすすってる。
ラーメン屋のカウンターって、独特の雰囲気があるわよね。
静かなんだけど、音がある。すする音、鍋の音、チャーシューを切る音。
会話はほとんどない。みんな、ラーメンと向き合ってる。
真剣勝負。
空いてる席を見つける。端っこの席。落ち着く。
第二章:メニューという名の選択
メニューを見る。
醤油、味噌、塩、とんこつ。
トッピングもいろいろ。チャーシュー、煮卵、メンマ、のり、ネギ…
悩む…いや、悩むふりをしてるだけ。
本当は、もう決めてる。
「醤油ラーメン、チャーシュー追加で」
いつもこれ。冒険しない。だって、これが一番好きなんだもの。
「醤油チャーシュー、一丁!」
厨房に声が響く。
さあ、始まる。私とラーメンの、真剣勝負が。
第三章:待つ時間という試練
水を飲む。
厨房を見る。職人さんが麺を茹でてる。
グツグツという音。湯気が立ち上る。
この待ち時間が、また良いのよね。
期待が膨らんでいく。どんな味だろう。どんな香りだろう。
でも、長すぎても困る。3分以上待つと、「まだかしら…」って思い始める。
人間って、勝手よね。
隣の人が、ラーメンをすすってる。
美味しそう…
早く、私のも来ないかしら。
第四章:運命の一杯

「お待たせ!醤油チャーシュー!」
来た…!
湯気がもうもうと立ち上る丼が、目の前に置かれる。
見て、この美しさ。
黄金色に輝くスープ。その表面に浮かぶ油の膜。キラキラ光ってる。
麺が見える。ちぢれた麺。スープに浸かって、美味しそう。
そして、チャーシュー。通常2枚のところ、追加したから4枚。丼の半分を覆ってる。
この光景、幸せ。
煮卵、メンマ、ネギ、海苔。全部が、完璧な配置。
まるで、芸術作品みたい。
いや、これは芸術作品よ。食べられる芸術。
深呼吸する。
香りを楽しむ。醤油の香ばしさ、豚骨の深み、ネギの爽やかさ。
さあ、いただきます。
第五章:スープという名の真実
まずは、スープから。
これが、私のルール。
レンゲでスープをすくう。
そっと、口に運ぶ。
ずず…
…!
これよ。この味。
醤油の香ばしさ。豚骨の旨味。鶏ガラの深み。
全部が混ざり合って、口の中で踊ってる。
熱い。でも、止められない。
もう一口。
んー…美味しい。
スープって、ラーメンの魂よね。
このスープのために、職人さんは何時間も煮込んだんだろう。
その努力が、この一口に凝縮されてる。
ありがとう、職人さん。心の中で、感謝を伝える。
(聞こえてないけど)
第六章:麺という主役
次は、麺。
箸で持ち上げる。ちぢれた麺が、スープを纏って持ち上がる。
良い感じ。麺がスープをしっかり絡めてる。
口に運ぶ。
すする。
ズズズッ!
(ちょっと音が大きすぎた?でも、ここラーメン屋だから大丈夫よね)
もちもちの食感。噛むと、小麦の香りが広がる。
そして、絡んだスープが、口の中で麺と一体になる。
この一体感。これがラーメンの真髄。
麺だけでも、スープだけでもダメ。
二つが合わさって、初めて完成する。
化学反応よ、これは。
いや、錬金術かもしれない。
第七章:チャーシューという贅沢
チャーシューを一枚。
箸で持ち上げる。柔らかい…今にも崩れそう。
慎重に、口に運ぶ。
噛む。
とろける…!
これ、本当に肉?って思うくらい、柔らかい。
箸で切れるレベル。いや、舌で切れるレベル。
味付けも完璧。甘辛いタレが、肉に染み込んでる。
脂身の部分も、全然しつこくない。むしろ、甘い。
チャーシュー追加して、正解だった。
(明日の体重?知らない。今は、このチャーシューに集中する)
第八章:煮卵という宝石
煮卵を半分に割る。
黄身が、トロリ…
半熟。完璧な半熟。
一口。
んー…!
白身は程よく味が染みてて、黄身はトロトロで濃厚。
これ、卵じゃない。宝石よ。食べられる宝石。
煮卵をスープに浸して、また一口。
スープと煮卵の組み合わせ。最高。
なぜ、こんなに合うの?
誰が最初に、「ラーメンに煮卵を入れよう」って思ったんだろう。
その人に、ノーベル賞をあげたい。
(ノーベル煮卵賞)
第九章:交互に、無心に
麺をすすって、スープを飲んで、チャーシューを食べて、また麺。
このループ。止まらない。
周りの音が消えていく。
聞こえるのは、自分がすする音だけ。
今、この瞬間。
私とラーメンだけが、存在してる。
他の全部が、どうでもよくなる。
仕事のこと?どうでもいい。
明日の予定?知らない。
人間関係?今は考えない。
ただ、目の前のラーメンに集中する。
これが、ラーメンの魔法。
いや、むしろラーメン催眠術?
第十章:残りスープという選択
気づけば、麺がなくなってた。
でも、スープがまだ残ってる。
このスープ、飲み干すべきか。残すべきか。
永遠の問い。
健康を考えたら、残すべき。塩分が…
でも、美味しい…
…3秒悩んで、決めた。
飲む。
だって、美味しいんだもの。
丼を持ち上げる。
ごくごくごく…
最後の一滴まで、飲み干す。
ああ…幸せ。
(明日、ちょっと喉が渇くかもしれない。でも、後悔はしてない)
終章:満たされた夜

「ごちそうさまでした!」
「ありがとうございました!」
お会計を済ませて、店を出る。
夜の空気が、心地いい。
お腹が、ずっしり満たされてる。
ラーメン一杯で、こんなに満足できるなんて。
800円(チャーシュー追加込み)。
この値段で、この幸せ。
コスパ、最強。
そして、何より。
ラーメンを食べてる時間って、全部忘れられる。
嫌なことも、心配事も、全部。
ラーメンって、ストレス解消にもなるのね。
(カロリーは増えるけど)
駅に向かう。足取りが軽い。
また来よう。
きっと、また「ラーメンが食べたい」って思う日が来る。
その時は、また来る。
この店の、醤油チャーシューラーメン。
それが、私の夜の味方。
(そして、体重計の敵)
でも、いいの。
ラーメンは、正義だから。
ひとりメシの美学シリーズ
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