休日の朝、7時半。
いつもなら、もっと寝てる時間。でも、今日は目が覚めた。
窓の外は、まだ朝の優しい光。
せっかく早く起きたんだもの。
今日は、モーニングに行こう。
あの喫茶店。駅前の、昭和から続いてる喫茶店。
支度をして、家を出る。
朝の空気が、心地いい。
目次
第一章:喫茶店という時代
駅前の商店街を歩く。
まだ開いてない店が多い。シャッターが下りてる。
でも、あの喫茶店は開いてる。
「喫茶 朝日」
昔ながらの看板。少し色褪せてるけど、それがまたいい。
扉を開ける。カランカラン、とベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
マスターの声。落ち着いた、低い声。
店内に入ると、タイムスリップしたみたい。
木のカウンター、赤い椅子、壁には古い時計とカレンダー。昭和の香りが、そこにある。
客は数人。新聞を読んでいるおじさん、スマホを見ている若い男性。みんな、静か。
窓際の席が空いてる。
「あちらの席、いいですか?」
「どうぞどうぞ」
第二章:モーニングという選択
席につく。
テーブルには、砂糖壺、灰皿(使われてないけど)、そして小さなメニュー。
モーニングサービス。
コーヒー450円で、トーストセット付き。
トースト、ゆで卵、サラダ、ミニヨーグルト。
これで450円。信じられない。
「モーニングセットと、ホットコーヒーをお願いします」
「かしこまりました。トースト、バターとジャムどちらにされますか?」
「バターでお願いします」
「少々お待ちください」
マスターが厨房へ。
待つ時間。
窓の外を見る。朝の商店街。まだ人通りは少ない。でも、徐々に街が目覚めていく。
この静かな時間が、好き。
第三章:コーヒーという目覚め
「お待たせしました」
まずコーヒーが運ばれてくる。
厚手の白いカップ。ソーサーの上で、湯気が立ち上ってる。
ああ、この香り…
コーヒーの香りが、鼻をくすぐる。苦くて、深い香り。
一口、飲む。
んー…
苦い。でも、嫌な苦さじゃない。
深煎りのコーヒー。しっかりとした味わい。目が覚める。
体が、内側から目覚めていく感じ。
朝のコーヒーって、特別よね。
一日の始まりを告げる、儀式みたいなもの。
第四章:トーストという幸せ
「トーストです」

来た。
木のトレーに乗せられて、モーニングセットが運ばれてくる。
トーストが二枚。きつね色に焼かれて、湯気が立ち上ってる。
その上には、バターのかたまり。熱々のトーストの上で、ゆっくりと溶けていく。
黄色いバターが、じわじわとトーストに染み込んでいく様子。
この瞬間、好き。
横には、ゆで卵。殻付きのまま、小さな器に入ってる。
サラダは、キャベツの千切り。シンプル。
ミニヨーグルトも添えられてる。
完璧な布陣。
トーストを手に取る。まだ温かい。
バターが溶けて、トーストの表面がキラキラしてる。
一口。
サクッ…
外はサクサク、中はふんわり。
バターの塩気と、パンの甘み。シンプルなのに、完璧。
噛むと、バターの香りが口の中に広がる。
トーストって、こんなに美味しかったっけ。
いや、違う。
喫茶店のトーストだから、美味しいの。
家で焼くトーストとは、何かが違う。
第五章:ゆで卵という儀式
ゆで卵を手に取る。
殻を剥く。コンコンとテーブルに当てて、ヒビを入れる。
ペリペリと、殻を剥いていく。
真っ白な白身が現れる。ツルンとした表面。
二つに割る。
ああ、完璧…
黄身が、ちょうどいい固さ。半熟すぎず、固すぎず。
テーブルにある塩を、ちょっとだけかける。
一口。
んー、美味しい。
白身のプルプル感。黄身のほっくり感。
塩のシンプルな味付けが、卵の味を引き立ててる。
ゆで卵って、シンプルだけど奥が深い。
茹で加減で、全然違う。
ここのマスター、分かってるわね。
第六章:サラダという爽やかさ
キャベツの千切りを食べる。
シャキシャキとした食感。
ドレッシングは、オーロラソース。マイルドな酸味と甘み。
トーストとゆで卵を食べた後の、この爽やかさ。
口の中がリセットされる。
また、トーストが食べたくなる。
サラダの役割って、こういうことなのね。
第七章:交互に、ゆっくりと
トーストを一口。コーヒーを一口。
ゆで卵を食べて、サラダでリセット。
また、トーストを一口。
このループ。
ゆっくりと、味わいながら。
急がない。今日は休日だから。
時間は、たっぷりある。
窓の外を見ると、商店街に人が増えてきた。シャッターが開き始めてる。
街が、目覚めていく。
私も、ゆっくりと目覚めていく。
このモーニングと一緒に。
第八章:ヨーグルトという締め
トーストとゆで卵を食べ終えた。
最後に、ミニヨーグルト。
蓋を開ける。
スプーンですくって、口に運ぶ。
酸味が、口の中をさっぱりさせてくれる。
甘すぎない、程よい酸味。
これで、完璧。
トースト、ゆで卵、サラダ、ヨーグルト、そしてコーヒー。
全部が、それぞれの役割を果たしてる。
バランスがいい。
朝食って、こうあるべきなのかもしれない。
第九章:喫茶店という空間
コーヒーを飲みながら、店内を眺める。
カウンター越しに見えるマスター。淹れたてのコーヒーを、別のお客さんに出してる。
丁寧な手つき。何年この仕事をしてるんだろう。
壁の時計。カチカチと音を立てて、時を刻んでる。
この店には、時間が違う速度で流れてる気がする。
ゆっくりと。静かに。
急ぐ人は、来ない。
ここに来る人は、みんな、このゆっくりとした時間を求めてる。
朝の喫茶店。
それは、一日の始まりを、丁寧に迎える場所。
第十章:残りのコーヒー
食事は終わった。でも、コーヒーがまだ半分残ってる。
これを、ゆっくり飲む。
一口、また一口。
冷めてきたコーヒー。でも、それもまたいい。
温かい時とは違う味わい。
苦味が、少し和らいでる。
窓の外は、もう完全に明るい。朝の光が、店内に差し込んでくる。
時計を見る。もう8時半。
1時間、ここにいたのね。
でも、1時間とは思えない。もっと短く感じた。
それとも、もっと長く感じた?
時間の感覚が、曖昧になる。
それが、喫茶店の魔法。
終章:満たされた朝

「ごちそうさまでした」
お会計を済ませる。450円。
「ありがとうございました。また来てくださいね」
マスターの笑顔。
店を出る。
朝の空気が、さっきよりも温かい。
お腹が満たされて、心も満たされて。
モーニング一食で、こんなに幸せになれるなんて。
450円。この値段で、トーストセットとコーヒー。
でも、それだけじゃない。
この空間、この時間、この雰囲気。
全部込みで、450円。
贅沢すぎる。
早起きして、よかった。
朝の喫茶店。
これが、私の新しい休日の過ごし方になるかもしれない。
一週間頑張ったご褒美に、週末の朝、喫茶店でモーニング。
そんな習慣、悪くないわね。
また来よう。
次は、ジャムのトーストも試してみたい。
そして、あのゆっくりとした時間を、また味わいたい。
朝の喫茶店は、私の秘密の場所。
一人で、静かに、朝を迎える場所。
ひとりメシの美学シリーズ
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